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- [第九回]緩衝のメカニズムとその数値化
GUIDE樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)
2007年執筆
第九回「緩衝のメカニズムとその数値化」
有機物には外部からの環境変化を一定に保とうとする機能があり、それが緩衝能である。この緩衝能がアルカリ緩衝に果たすメカニズムを解き明かすには、フミン酸・フルボ酸の働きは重要である。
フミン酸・フルボ酸は高分子有機化合物によって構成される。一般的に高分子化合物は、それを特徴づける官能基を持っている。官能基はアルカリ性、中性、酸性と種類が多い。
今回、実験で使用した3種のピートと黒土から分画・抽出したフミン酸・フルボ酸には、カルボキシル基およびフェノール性水酸基の酸性官能基が含まれていることが知られている。有機物のアルカリ緩衝能を解き明かすには、この酸性官能基から飛び出す酸(H+)が、どの時点(pH)で、どれだけの量あるかを測定すればよい。
緩衝のメカニズムとは、アルカリ性を発現させているOH-と有機物から解離されるH+とが反応して水に変化することである。フミン酸・フルボ酸にアルカリ滴定して求めた実験値と純水による滴定理論値との近似値を求める作業(フィッティング)を通して、質と量を見出すことができる。
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滴定において、アルカリ溶液を何滴垂らしてもpHがなかなか上昇しない時点が現れる。そこがフミン酸やフルボ酸から酸が解離した瞬間であり、
アルカリの緩衝時点でもある。
水道水に例えれば次のようになる。コップに入った水道水を想像してもらいたい。水道水にアルカリ液を1滴垂らすと、そのpHは一気にアルカリ方向へ上昇する。これは水道水に何らの緩衝能がないからである。
そこで、そこにフミン酸やフルボ酸を混入した水道水を作り同様にアルカリ液を垂らしていくと、あるpHで何滴垂らしてもpHがなかなか上昇しない時点が現れてくる。そこがフミン酸やフルボ酸から酸が解離した瞬間であり、「アルカリを緩衝した」ということになる。それに要したアルカリの量が、酸の持つ緩衝能でもある。
この滴定は非常に時間と根気のいる作業である。良くて1日に2検体できればよいほうで、本当に時間のかかる作業であった。
この実験を通して様々なことが分った。フミン酸・フルボ酸ともに、複数の酸が解離するpHをもつということ、黒土、カナダ産ピート、北海道ピートの持つ緩衝能は、中性から酸性にかけて発現されやすいということ、また先行する知見では明らかにされていなかったフェノール性水酸基が関与するアルカリ域の挙動も明らかとなった。ヤシ繊維ピートのフルボ酸はpH9.0以上にピークを持つという事実も、そのうちの一つである。
また、酸が解離するピークの合計(これを「サイト密度」と表現した)と有機炭素の含有量とを乗じれば、その有機物のもつ緩衝力として表現できることも分った。有機物の持つ緩衝力を定量的に表現できるこの手法を、実験に使用したピート3種の評価にあてはめてみれば、北海道ピートとヤシ繊維ピート共に同等程度のサイト密度(2.0mmol/g以上)があり、カナダ産ピートはその84%程度の緩衝力を有するという表現となった。
筆者が20年前に疑問に思った「腐熟度の違いが腐植含有量の違いに反映されていない」という点も、この緩衝力を活用すれば判断できることが分った。これについてはバーク堆肥をサンプルに、腐熟度の違いを緩衝能で表現することとした。
使用したものは、生・半年間熟成・2年間熟成品の3種である。有機炭素にサイト密度を乗じて緩衝力を算出したところ、2年間熟成品は生に比べ1.63倍の緩衝力を持つことが分った。このように、「有機物の熟成度が未熟品に比べて何倍緩衝力があり、植物生育に有利」という定量評価法が根付けば、より品質の高い有機物が供給されるきっかけともなる。しかも、このことはアルカリ改良にとっても可能性が広がることでもある。