GUIDE樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)

2007年執筆

第七回「腐植含有量って、有機物の質を表さないの?」

コンクリート塊などでアルカリ化した土壌は、何らかの改良が必要である。

     

過去、この改良に当たっては多くの試行錯誤が行われてきたが、経済性、即効性、永続性などの点でなかなか良い方法がないまま今に至っている。

     

アルカリ土壌の改良には、①一般に時間をかけて劣化を待つ、②酸などを加えて中和する、③中性に近い土壌を客土して、高pH要因物質を希釈してアルカリ性を薄める、もしくは ④緩衝作用のある物質を土壌に混入する、などの方法がとられてきた。筆者も今まで多くの資材を併用しながら改良に当たってきたが、植物の生育を考えるならば有機物を活用することが最良の方法であると考えている。

     

「緑を創る植栽基盤」(ソフトサイエンス社)の中で長谷川氏も、「高pH土壌の改良には、現地土壌に強酸性のピートモスや緩衝能および交換性陽イオン容量(CEC)の高い堆肥を混入し、下層地盤の排水を良好に保つ」等の対策が必要であると明記している。化学的な改良については連載10「アルカリの新改良工法を開発」、連載11「これからのアルカリ中和剤に必要な要素」に記すが、まずは植物生育の根本に立ち返り、有機物の緩衝能について、その作用機序を追求していきたい。

     

腐植に興味をもったのは、ひょんなことからであった。ある日、アルカリ改良の方法を探るために、現場から採取した土壌に有機物を混入して物理性・化学性などの分析を行った時のことだ。土壌改良資材として有機物を混合したが、その際敢えて明らかに堆肥化が進んだ有機物を混入した試料と、ほとんど生に近いものを入れた2種類を作成した。

     

もちろん「堆肥化の進んだ良質の有機物を使用することが望ましい」という結果を期待してのことだったが、出てきた腐植含有量の分析結果はほとんど同じ。「これはどういうことか」と詳細にみると、なんと腐植含有量は「有機炭素の1.724倍」と、単純に腐植係数を乗じただけのものであることが分り、がっかりしたことを覚えている。

     

当然データは一つの指標だけで判断するものではなく、pH、CEC、粘土含量など総合して見なければいけないが、往々にして「腐植含有量」の多い土が「よい土」と見られがちであることも事実である。「できるならば有機物の質の違いを定量化できれば、もっと効果の上がる改良が可能であるのに」と考えたのが、今から20年ほど前のことであった。

  • アルカリ化した現場発生土を植栽に適した土壌に改良するには、化学的にpHを下げ、合わせて良質な有機物の混入が必要である。
    Atkinson and Guppy (1988)

    
    

一般的に土中に混入された有機物は、徐々に分解して、植物に必要な栄養素の供給源となる。

    

それらは、植物栄養素を吸着・保持して、土壌化学性を良好な状態に保ち、または土壌粒子に吸着して土壌構造を作るとともに、土壌の物理性を良くする。特に酸性土壌ではアルミナを不活性化させながら植物の根系を発達させるなど、多くの働きを持つ。

    

特に外部からの環境変化を一定に保とうとする機能が高い。これが緩衝能であり、高pH土壌の改良に有効な手段となる。

    

有機物には糖類・タンパク質・ヘミセルロース・セルロースが含まれるが、これらは土中で比較的容易に分解され、水と二酸化炭素、アンモニアに変化する。その一部は微生物の代謝産物として残存し、それらが重合して難分解性化合物を生成する。

    

一方、ワックス、樹脂類、リグニンは分解されにくく、これらは長時間かけて芳香族性の難分解性高分子化合物を形成する。これが土中の腐植物質と呼ばれるもので、高分子有機酸の混合物であり、その性質はきわめて多様性が高い。腐植がアルカリ緩衝に作用するには、その構成要素である腐植物質(フミン酸、フルボ酸)の性質を解析しなければならない。

樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)に戻る