GUIDE樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)

2007年執筆

第六回「アルカリ土壌に合う植物ってあるの?」

土壌のアルカリ化は、将来の街づくりにとって解決しなければならない課題である。

     

土アルカリ化した土壌にいくら立派な植物を植えても、やがてはジリ貧状態に陥り、貧相な景観を呈してしまう。しかし、全ての植物にとってアルカリ土壌が駄目であるとはいえない。

     

植物の生育特性として、アルカリ土壌に適応した植物もある。一般的にはプラタナスやユリノキなどヨーロッパ原産の樹木はアルカリストレスに強いと言われている。

     

日本で見かける樹種でも生存pHが8.0以上で耐える樹木も多く、都市緑化の枠を越えて代表的な樹種の一覧を下表に示した。表中の種が属する科、属のなかには、種名の植物と同様にアルカリに強い種が多い。そのため、表には科・属名もあげた。

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    この表をみると、アルカリ土壌に耐えてよく成長する樹木には、
    マメ科、バラ科、ニレ科、モクセイ科が多い。
    わが国の海岸植生を形成するクロマツやウバメガシも、
    アルカリに強い耐性を示す。
    石灰岩地のアルカリ土壌に生育する樹木としては、コバノトネリコ、ブナ、シオジ、ツゲ、ヤマモモなどがある。
    アルカリ化された砂漠の緑化に用いられる樹木には
    ギョリュウ属、モクマオウ属、ユ-カリノキ属など多くの種がある。
    牧草、作物にはササゲ、ダイズ、ミヤコグサ、ペレニアルライグラス、デューラーコムギ、オオムギ、バミューダグラス、ワタなどがあげられる。
    これらの植物はアルカリ化した土壌環境に適応し、
    また耐性の遺伝子を獲得したものである。

    
    

理科年表によると、地球上の生物の「生存pH」は0から11.1である。

    

この値は媒質によって異なり、森林、原野構成植物は5.2~8.5とある。単純に平均値を出せば6.9となる。地球上の大多数の植物はこの平均値付近で生育していると考えると、8.0~8.5以上のアルカリ条件で生育するためには、それなりの仕組みが必要となってくる。

    

その仕組みの一つは、形態的なものである。高アルカリで生活するハマアカザ類は葉の表面に塩毛を密生させていて、ここに塩分をためて脱落、放出し、細胞のアルカリ化を制御している。ヒルギ類の胎生種子も海水のアルカリ塩類に対する適応と言われている。

    

もう一つは生理的な適応である。海岸のアルカリ環境に生育するヒルギ、ハマサジ、アツケシソウは根の浸透圧を調整して、アルカリ条件に適応している。

    

普通、植物細胞の浸透圧は7~8気圧で、これらの植物はその3倍以上になる。海水のpHは7.8~8.2、浸透圧は25気圧と言われているので、細胞の浸透圧がこれ以上であれば、組織は生命を保つことができる。組織内の浸透圧やアルカリストレスに対する耐性は、呼吸エネルギ-によっていると推察されている。

    

地球上にはアルカリに関して、アルカリ土壌、塩性土壌、アルカリ-塩性土壌が分布しているが、ここに生育したものの中にはアルカリ反応に対する適応遺伝子を獲得したものも多い。

クロマツも長年海岸付近で生育していることから、アルカリ耐性遺伝子を獲得したと考えられがちだが、実はクロマツの生育は海岸付近で悪く、適潤性褐色森林土壌で最大の成長を示す。このことから、クロマツの生育適地はアルカリの強い海岸砂地ではなく、弱酸性の森林土壌であることがわかる。

植物の中にはアルカリ条件で最大の生育をするものもあることからすると、アルカリへの適応性・耐性を一概に議論することは難しい。

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