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GUIDE樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)

2007年執筆

第四回「アルカリ土壌は、本当に植物生育に影響を及ぼすのか」

自然に発生するアルカリ土壌は、世界的にはアメリカ中部などの乾燥地においてよく見られる。原因は、雨で流された陽イオン類が、乾燥によって地表面に集積するからである。

    

日本では、ごく稀に兵庫県三田市に特異的に見られるくらいで、今まではそれほど問題視されてこなかった。土壌研究で歴史のある農業分野でも、人為的にアルカリ化された土壌を対象にすることはそれほどなく、植物への被害や改良に対する知見は多くないのが実情である。

    

コンクリート塊やセメント固化処理によるアルカリ化問題が本格的に取り上げられたのは、ここ20数年ほど前からである。都市緑化における研究では、某団体から建築物外構において「pH9.9程度なら樹木などの植栽も可能である」とする報告がある一方で、「pH8.0以上で障害が見られる」とする規準があるなど、実際のpHと植物生育の関係は必ずしも一定の範囲であるとは限らないものであった。

    

それらは、アルカリ障害が地上部に現れる現象をもとに原因特定しようと考えるところに問題であると思われた。実際には、どの程度のアルカリで、どれくらい植物に影響が現れるのであろうか。

    

土壌は、物理性・化学性・微生物性に様々な環境圧が加わり、植物生育に影響を与える。また、植物自体のアルカリ耐性や生育特性なども異なる。このことから、純粋にアルカリによる影響であると断定することは非常に難しい。

    

そこで、「地上部の植物生育は地下部の健全な根系発達によるところが大きい」という観点から、アルカリと植物生育との関係を根の発育健全度との関係で見ることとした。

    

まず、生育実験のための基準となる土壌を筑波赤土(関東火山灰芯土)とした。これは、試験土壌をpH12.0まで上げるために大量の水酸化カルシウムを加えても、EC値(電気伝導度、土壌の塩類濃度の基準、上限は1.5 mS/cm程度)が1.1mS/cm程度しか上がらず、塩類の影響を少なくしてpH障害を特定できる利点があるからだ。

    

そこで、その土壌をpH6.0~12.0の7段階に調整し、縦18cm、横13cm、厚2cmの根箱にハツカダイコンを播種し、根の生育を観察した。結果は写真の通りである。

  • pH6.0では順調に生育できる根は、pH9.0あたりから生育が悪くなり、
    pH10.0を越えると根の伸長に障害をきたしていることが見てとれる。
    顕微鏡写真でも根の先端に障害が現れていることが確認できた。
    これは明らかにアルカリによる害であり、高pHが根に影響を与えることが確認できた。
    
    

根は成長点の頂部に根冠組織を有し、新しい根端には表皮細胞が発達した根毛がある。根の先端部には分裂組織があり、細胞分裂を繰り返して1次組織を形成する。根が順調に1次組織を形成できるか否かは、植物の将来の順調な生育にとって重要である。

    

従って、主根長は将来の植物生育の良否を表す重要な指標の一つとして考えた。根箱実験の結果、主根長はpH上昇とともに生育障害も増加していることが明らかとなった。やはり、アルカリ障害は植物生育に影響を与えるということが裏づけられた。

    

それでは、アルカリ化が都市緑化植物にどのような影響を与えるかという点も確認しようと考えた。木本類ではクスノキ、シラカシ、サクラ、ケヤキなどがよく使われる。そこで、それらをpH8、9、10に調整しワグナーポットに投入し、植栽後約半年間の生育経緯を見た後、対照区(pH6)と比較した。評価指標は検討の末、白根発根量とした。

    

結果は、シラカシ、クスノキ、ケヤキ、サクラの順でアルカリ耐性があるという結果になったが、これはサンプル数が少なく、地上部との相関などが重要である点から、参考程度として考えている。ただ、pH6区に比較して、高pH区の白根の発根量は一律に少なくなり、確実にアルカリの影響を受けていることが確認でき、今後都市緑化での影響が懸念されると思われた。

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