GUIDE樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)

2007年執筆

第ニ回「コンクリートのpHは12.6」

都市化が進むにつれて、コンクリート破砕や車のタイヤなど日常生活から出る砂塵で、都市内の土壌がアルカリを呈していることは、すでに30年前から指摘されていた。これらは「都市化土壌」と呼ばれ、アルカリ性に固結化などの物理性が加わり、街路樹などの生育が極めて不良であるという報告もある(辰巳修三、1974、緑地環境地球論)。

最近では、建設に伴い発生する再生砕石やセメント安定処理の一部が植栽基盤に混入し、アルカリ土壌を発生させていることは、新たな緑化技術の問題点として大きく扱われ始めた。アルカリ化の原因にはコンクリートなどに加え、海浜埋立地に見られるナトリウム系のものもあるが、以降原因物質を特定する意味から、セメント系アルカリ障害に関して話を進めることとする。

コンクリート再生砕石やセメント安定処理によるアルカリ化は、それらに含まれるポルトランダイト(Ca(OH)2)と間隙水の反応により、長期に高pH環境が保たれる。やがて土中のポルトランダイトは空気中の二酸化炭素と徐々に反応して炭酸カルシウムを生成して(これを炭酸化とよぶ)次第にpHは低下していくが、その速度は土壌の物理性によるところが大きく、一般的に土壌深部は遅い。

「土壌のアルカリ化は降雨さえあれば中性近くにもっていけるので、それほど問題にはならない」という意見を聞くことがある。

アルカリは事実炭酸化などによってやがては中性近く(8.6前後)までに落ちるが、その時間軸が1年なのか10年なのかは分らないため、確実性を求める現場ではあまり頼りにならない。セメント系固化材を使用した改良土のpH変化を2年9ヶ月追跡調査したデータによると(セメント協会、1985)、地表面はpH8.9に下がっていた処理区が、10cm下ではpH11.3であったことからも、自然によるpH降下はあてにならないといえる。

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  • pH12.6のコンクリート塊は、長時間かけて劣化していく。
    Atkinson and Guppy (1988)

コンクリートの主成分であるポルトランダイトは、水にそれほど溶けない。せいぜい水1リットルに1.6グラム程度で、その濃度は4.4×10-2モルとなる。水のイオン積で計算するとpHは12.6となり、実際の溶解液の測定結果と一致する。コンクリートの間隙水から流れ出る飽和なアルカリ溶液は、なんとpHが12.6なのである。

家庭用漂白剤がpH12.5であることから、そのアルカリの高さが理解できる。ところが、悪いことにコンクリートの中にはまだ溶けきっていないポルトランダイトが存在し、それが間隙水により次々とアルカリ化の原因となることから(アルカリニティーの要因)、アルカリ緩衝には障害土の中和滴定による確認が絶対条件となる。

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  • アルカリ障害の原因のうち、76%までがセメントであった。

また、アルカリ障害として改良した土壌は最低でpH8.0、最高はpH12.0、対象面積別では1物件当たり最大50,000m²、最少30m²で、広さの大小を問わずpH異常が問題視されていることを示していた。

以上のように、コンクリート塊からしみ出すアルカリ飽和溶液のpHは非常に高く、過去様々な問題を抱えた現場の状況からみて、アルカリ障害対策が待たれていることは間違いない。

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