GUIDE樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)

2007年執筆

第十二回「アルカリ改良は、正しい原因の把握から(最終回)」

腐植物質が土壌のアルカリ緩衝に効果的だといわれていたが、「なぜ」なのかを知りたくてこの研究を始めた。結果、有機物の質と緩衝力の関係について、新たな知見を得たことは大きな成果だった。

     

セメントが原因によるアルカリ化は、建築物の建替需要が増えてきたために発生した新たな問題である。また、埋立地や道路基盤の安定化に使用されるセメント系固化材は、開発の場所や方法が過去と変化し、そこに緑化というニーズが新たに加わり顕在化してきた。

     

この時代の変化とともに現れた土壌障害は、まだ歴史が浅く、今までは対処法が確立されていなかった。原理を追求することで改良方法を明らかにすることができたが、緑化の専門家でもまだまだアルカリが植物に及ぼす影響を知らない方も多く、啓蒙活動が重要だと強く思う。

     

アルカリ害を端的に理解するには、連載4「アルカリ土壌は、本当に植物生育に影響を及ぼすのか」で述べたハツカダイコンによる根箱の実験が有効である。

連載4「アルカリ土壌は、本当に植物生育に影響を及ぼすのか」

     

ECの上昇に注意しながらアルカリ土壌を作成し、根箱に入れて播種すれば、5~6日で結果が出る。pH9.0を超えるあたりから根の生育が悪くなり、pH10.0を超えると明らかに根の伸長に障害を来たす。自然土壌では炭酸化などで時間の経過とともにpHは改善されるが、当初根に与えられた障害は将来生育に影響するだけに、アルカリ改良は土壌改良場面では重要な位置づけとなる。

  •  

    この土壌調査結果は一見アルカリ土壌に思えるが、詳細を見ると塩類土壌であった。 アルカリ土壌と塩類土壌では、改良方法が違ってくるので注意が必要だ。

アルカリ化とよく似た症状に塩類土壌がある。pHは8.0から9.0程度だが、何を植えても活着しないという極端な現象が現れる。正しくは詳細に土壌を分析してみる必要があるが、現場の立地を調べてみれば大体の見当はつく。

     

塩類土壌の場合は対応が大掛かりになる。表1の土壌は、A地点、B地点ともにpHは8.0~8.5の間で、一見問題ないように見えるが、実は塩類土壌であった。日本では、Na+(交換性)濃度についての適当な基準はないものの、U.S. Soil Survey Staffの指標であるアルカリ土壌の判定基準は「15%」以下である。

     

Naが最も少ないA-(1)地点の1070mg/kgを等量当たりに換算してCECで除した値は49.2%となり、上限の15%を大きく越えていた。また、CL-についても、限界値の0.2%を超えている検体もあることから、明らかに塩類土壌といえた。

     

処置法は、いかに排水を良くして、塩類を含んだ水を場外にしぼり出せるか、また硫酸カルシウム(P&L)を混入すると効果が上がる。さらに、良質な有機物を混入して緩衝能を高めることも重要な方法である。

     

まだまだアルカリ土壌は見えないところで発生し、植物生育を悪化させている場所が多いと思われる。豊かな緑を作るために、もっと早く、広く情報を伝えて改良できればと思っている。

樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)に戻る