• GUIDE土の専門家から緊急提言「グリーンインフラを用いた防災・減災対策」(全6回連載)

    第三回 防災海岸林を強固に育成するための提案

    1. 海岸林と津波

    東日本大震災では、太平洋沿岸地域で大津波による甚大な被害が発生しました。海岸林は、大津波によりなぎ倒され、内陸深くまで流され大被害を受けました。根本か洗掘され根系がむき出しになった樹木、根本から折れた海岸林を見て、海岸林は今回のような大津波に対しては効果が無いのではないかとの意見もありましたが、その後の調査結果により大きな減災効果を発揮していたという事実が分かってきました。

     

    海岸林の効果を検討するシンポジウムは各地で開催されています。平成23年6月22日に開催された国際森林年記念シンポジウム「海岸林を考える ~東日本大震災からの復旧・復興に向けて~」(主催:日本海岸林学会、共催:農林水産省、国際森林年国内委員会事務局)では、海岸林が津波の勢いを和らげ、漂流物を捕捉するなど、一定の効果が確認されたことが報告されました。

    海岸林は本来、飛砂防備、防風、防潮などを目的として造成されたものですが、今後の震災の復旧・復興にあたっては、津波に対する減衰効果も考慮した海岸防災林の再生が必要であるとし、検証や検討などが行われています。

    「海岸林による津波の減災効果の評価について」原田賢治(林業技術 No.741. 2003年12月)の津波数値シミュレーション法によると、津波波高が3mの場合、遡上距離は海岸林幅が50mの場合で0.81、200mの場合で0.64に減衰します。また、流速は海岸林幅50mの場合で0.54、200mの場合で0.34に減衰されるようです。

    これらは樹体が津波により破壊されない場合ですが、今回の大津波では海岸林が折れたり、洗掘されたりして流されてしまいました。洗掘を受け流された樹木の根系は、一様に浅いものでした。

    今回の大津波のような津波に対し、減衰効果を上げるためには、樹林の密度、幹の直径、葉部の投影面積、樹高、枝下高などの諸条件を満たす健全な樹木を育てることはもちろんですが、基盤の盛土の高さや硬さなど植栽基盤整備に対する検討が重要であることがわかりました。大津波が押し寄せて来ても越流しない盛土高さと、深い根系発達を可能とする生育基盤の造成です。根系を深く発達させることにより、盛土を緊縛し、根系と一体となった補強盛土を造ることが重要です。

    • 写真1

      津波により破壊された海岸林。

    • 写真2

      内陸深くまで運ばれた海岸林。それほど深くまで根は入っていない。

    2. 生育を堅固にするためには、植栽基盤造成に工夫を

    林野庁では「多機能多様性海岸防災林の効果について」として一つのモデルを提示しています(図1)。すなわち、海岸林の幅を追加し、基盤には無害化した再生骨材などの資材を有効活用する方向です。海岸林には多くの松が植えられますが、植栽基盤の改良については砂に炭やバーク堆肥を混入するだけの簡単なものです。しかも、改良厚みが問題になります。実際に根を深く伸長させるための堅固な海岸林を造成するには、この植栽基盤を工夫する必要があります。

    • 出典:「資料7 海岸防災林の再生の考え方(案)」
      第1回東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会参考資料(林野庁)より抜粋

    そこで、根系を深くまで発達させる「パワーミックス工法」の活用をお勧めします。この工法は、大粒径の単粒度骨材を用いることにより、空隙の多い植栽基盤を造成するもので、その骨材のかみ合わせ空隙内を根が自由に伸長して生長する空間とするものです。骨材として普通は火山砂利を使用しますが、現地で発生した再生砕石の活用も可能です。

    海岸防災林の導入植物は、海側にはマツ林を、陸側には広葉樹林帯とし多様な植生を造成することが構想として上がっています。海岸防災林の上部には歩道や車道の設置も検討されています。「パワーミックス工法」は、そのような道路構造物路床(耐圧基盤)としても用いることができます。歩車道の路床に「パワーミックス工法」を用いることにより、樹木根系の伸入が可能な路床構造とすることができ、より健全な樹林を形成でき、樹木根系と一体となった耐圧基盤を造成することにより、より強固な防災効果を発揮できるものと考えられます。

    3. モデル基盤のあり方について

    図3は、山林の土壌断面のモデル図です。最下部は岩石層(D層)であり、その上に基岩が風化し細かくなったレキ層(C層)があります。盛土を行う場合、この2層には「アルカリメイトなど中和材を用い無害化した再生骨材など」を活用することができます。

    その上部には、土と腐植が混じる層、鉄分がぬけて白くなっている層(A層)や鉄がたまっている層(B層)があります。この部分が植栽基盤にあたります。従来工法では柔らかな客土を利用しますが、転圧により固結しやすい層でもあります。

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      出典:『絵とき地球環境を土からみると』
      松尾嘉郎、奥薗壽子(著)、農山漁村文化協会(発行)              

    図4は「パワーミックス工法」を採用した場合の構造図です。根系はこの層に多方向に根を張ります。モデルは単植ですが、実際には列植や群植になりますので、それにより根張りは絡み合い、緑化基盤全体が「強い粘りの構造体(複合補強土)」になります。

    4. 再生砕石の利用について

    パワーミックスの骨材には、直径4cmから2cm程度の火山砂利を使用しますが、粒径の篩い分け分布、保水性、間隙率、かみ合わせ空隙などの諸条件が合えば、被災地のコンクリート再生砕石(RC)の有効利用が可能です。その場合は、pHの調整が必要です。また、場合によっては塩分濃度の確認が必要となりますが、塩分については洗脱により使用が可能になります。pH改良にはアルカリメイト(pH改良資材)を使用することが適当です。

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