• GUIDE土の専門家から緊急提言「グリーンインフラを用いた防災・減災対策」(全6回連載)

    第ニ回「除塩対策」にはESP(交換性ナトリウム率)の管理が重要

     塩害を受けた圃場の被害程度を正しく診断することは、非常に重要な作業です。除塩対策に必要な指標として、現在pH(H2O)とEC(電気伝導度)が使用されていますが、東邦レオではESP(交換性ナトリウム率)の分析確認を提案しています。現在の指標とESPの重要性については次の通りです。

    1. pH(H2O)について

    土壌溶液の水素イオン濃度を表す指標で、化学性を知る上で重要な項目です。pH(H2O)は土壌養分の溶解度を支配しています。稲の場合は、5.5~6.0程度が最適です。pHがあまりに酸性に傾くと、土壌有害物質が溶け出し、植物根に直接的な影響を与えます。8.0以上のアルカリ性の場合も問題です。

    2. EC(電気伝導度、Electric Conductivity)について

    土壌溶液の電気比抵抗の逆数で、一般的に塩類障害の目安としています。測定方法は土壌1に対し5倍量の純水を加えて振とうし、1時間放置した溶液をECメーターで測定して値を求めます。稲の場合は、上限は0.6dS/m(デシジーメンス)とされています。

    3. ESP(交換性ナトリウム率、Exchangeable sodium percentage)とは

     ESP(交換性ナトリウム率、Exchangeable sodium percentage)とは、土中の陽イオン中に占める交換性Naの比率をいいます。日本では塩田跡地の改良には必ず使用されている指標です。アメリカでの判定基準では「15%」以下とされています。  海水によって冠水した圃場は、海水中に含まれるNa+が土壌コロイドに吸着され、Na粘土を形成します。土中にNaイオンが増えると、植物は「青菜に塩」的な塩類障害を受けると同時に、粘土の分散が生じて透水性を極端に悪化させます。

    ESP =(交換性) {(Na/(Ca+Mg+K+Na)}×100

     ESP値の確認をお勧めする理由は、土壌によってECとESPが常に相関関係にあるとは限らないからです。例えば塩田跡地での例ですが、数年間放置して雨水による脱塩を行なった土壌のEC値は1.4 dS/mでした。塩田跡地としてはかなり改良された結果だと判断されました。しかし、ESP値は49.2%と、基準の15%を大きく超えた塩類土壌であることが判明し、対策も別途協議が必要になったのです。また、実際に今回仙台市内でもECが0.38 dS/mと問題ないデータにも関わらず、ESPが29%であった例もあります。  下表のヘドロ下従来圃場での分析結果では、EC値が2.24と上の塩田跡地の例より大きな値にも関わらず、ESPは上の例より低い46であることから、時間経過とともに変化する指標をESPも含めて総合的に検討することが重要だと考えています。

    今回の仙台市若林区で塩害を受けた圃場の分析結果は以下の通りでした。

    pH(H2O) EC(dS/m) ESP(%)
    control 5.4 0.04 1
    ヘドロ(上層) 5.5 21.1 228
    ヘドロ(下層) 5.1 8.1 113
    ヘドロ下従来圃場 5.1 2.24 46

    注意:ESPが100%を超えているのは、あまりにNa+が強いため、交換性以外のNaも検出してしまったためです。

    この結果から、ヘドロ上層・下層のECおよびESPは明らかに問題ありといえます。ヘドロ下従来圃場の土壌も冠水による影響でECおよびESPともに高い値となっています。除塩改良が必要であることが分かります。

    4. 石膏投入は有効な改良方法

    土壌コロイドの陽イオン吸着性は、強い順にCa>Mg>K>Naです。Naが卓越する塩類土壌にカルシウム資材(石膏)を施用すれば、土壌コロイドの表面は次第にカルシウムイオンに置き換わります。土壌中でのこの反応は急激ではありませんが、徐々に進行してやがてはCa土壌に変化していきます。これを一般的に「Na粘土からCa粘土に移行した」という言い方をします。Ca粘土は土壌の団粒化促進および土壌栄養面でも植物に有効ですので、石膏の投入は塩類土壌の改良と同時に土壌改良に大いに効果があるといえます。

    除塩に有効なカルシウム資材には石膏と炭酸カルシウムがあります。石灰もカルシウム資材ではありますが、水と反応して水酸化カルシウムを生じ高アルカリ性を発現します。稲はpHに非常に敏感ですので、カルシウム資材の対象から除外しました。

    カルシウム資材を使って効果を安価に発揮させるには、その溶解度が大きく影響します。石膏と炭酸カルシウムとの溶解度を比較したものが下の表です。単純比較ですが、無水物石膏は炭酸カルシウムに比べて160倍、水和物石膏で140倍の溶解度をもっています。従って、同量のカルシウムを土壌に供給するには、石膏系はその必要量が少なくてすむことが分かります(詳しくは溶解度積による比較が必用)。その分作業量も少なくなりますので、総合的に有効であると判断できます。

    石膏
    • 20℃ 無水物  2.4g /リットル
    • 20℃ 水和物  2.1g /リットル
    炭酸カルシウム
    • 0.015g /リットル

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