GUIDE樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド(全12回連載)

2007年執筆

第三回「粘土の少ない土壌は、アルカリ化に要注意」

コンクリート塊がアルカリ化の原因になるのは、セメントの主成分であるポルトランダイトに含まれる水酸化物イオン(OH-)が、接触する水によってしみ出すからである。そこで、土壌にポルトランダイトをどれだけ加えたら、pHはどう変化するか実験してみた。対象とした土壌は、関東の赤土(B層)、関西のマサ土、海砂など6種類である。

    

一般に粘質土や有機物の多い土壌を固めるには、セメントが大量に使われる。理由は土中の粘土や腐植がセメントを緩衝して、効果をうすめてしまうからである。

    

実験した結果、その現象が現れた。pH7.0の赤土をpH8.7まで上げるために必要なセメント量は、1m³あたり約6.2kgであったが、同じ量をマサ土(pH8.0)に入れると、pH11.6まで跳ね上がった。マサ土はほとんど粘土を含んでいないため、ポルトランダイトの影響がそのまま反映されたのだ。マサ土は1m³あたりpH1上げるのに、セメントは2.0kg程度で済むという事実から、粘土の少ない土壌は反応が敏感で、アルカリ障害を受けやすい土壌であるといえる。

    

建築物の基礎に使われるコンクリートのアルカリは、どの距離まで影響があるかという研究報告がある(大阪府立大学)。結果はコンクリート面からせいぜい30cm程度までであった。よくコンクリート基礎に沿って多くの植物が生えている光景を見かけるが、時間が経過するに従って影響は少なくなると考えられる。

    

ただ、コンクリートが小さな塊となって土中に混入すると表面積が大きくなり、短時間に多くの水酸化物イオンが流れ出すことになり、土壌はアルカリ化を呈し植物に悪影響を及ぼす。

  • 粘土の少ない土壌(関西のマサ土など)は、特にアルカリ物質に影響を受けやすい。
    Atkinson and Guppy (1988)

  • アルカリ化したマサ土に植栽した樹木に、障害が発生している。

    
    

土中のアルカリ分は炭酸化により、やがては8.6前後に安定化すると前号で述べた。空気中の二酸化炭素の影響は非常に大きい。そのため、アルカリの中和滴定実験を行う時は、必ず窒素雰囲気下で行わないとデータの信頼性を欠く。自然による土壌の中性化は、酸性雨の影響も大きい。二酸化炭素を含んだ雨にNOxやSOxが影響してpH5.6以下になったものを酸性雨というが、これはアルカリ土壌の良い中和剤となる。

    

根や微生物の呼吸もpH降下に影響を与える。土中では、根や微生物から発生する二酸化炭素で炭酸化が行われる。ただ、アルカリ土自体に植物を導入することが難しい現実から、たとえ雑草であったとしても長時間を要し、求める土壌深までの改良は難しい。

東邦レオで行った実験では、根による炭酸化は雨水通過によるpH降下よりはるかに効果があることが認められた。また、基盤の排水構造が保たれていれば、土中の水分流亡に伴い、自然にアルカリ分が土壌下部に溶脱してpHを降下させることも可能である。

    

このように、自然によるアルカリ中和効果は、土壌の諸条件、天候、それにアルカリ化の原因による違いなどで、求める時間内に正常なpHに改良できるかどうかは疑問でり、あくまでも補助的に考えておくべきであろう。

    

pHは、土壌に水を1:2.5で加えて1時間振とうした後、懸濁液をガラス電極で測定する。これを活酸性といい、pH(H2O)と表現する。この測定法では、水により土壌コロイド表面からカチオンを洗い出し、H+イオンを測定することになる。土壌内に展開する植物(樹木)の根を良く見てみると、土中で最も生育条件に適した箇所を捜しながら伸長していることが分る。

    

植物は土壌の間隙に根を張り、そこで生活しているという事実から、現実に沿った土壌間隙pHなるものが計れないか様々実験を行ってきた。が、実用面から難しい問題が多かった。今でも懸濁液による測定法では、pH値は植物にとって高め(アルカリの場合)に出ると考えていて、適切な土壌粒子表面のpH測定法がないか模索している。

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